夢みる冒険者たち

***ひっくり返すファンタジー***

もっと、お洒落なカラス(挿絵:フリー素材バージョン)

 

 

一番美しい鳥を選び、鳥の王様とする

 

という神様のお触れが出ました。

 

 

鳥たちは競って泉に行き、羽づくろいを始めています。

 

「一番美しいのは、私よ。」

「我こそが、王にふさわしい。」

「もっと綺麗にして、神様にアピールしなくっちゃ!」

 

 

 

 

 

「いいなあ・・・ぼくはみんなみたいに、綺麗な色じゃないからなあ。」

 

他の鳥たちから離れて、カラスはぽつんと立ったままみんなを見ていました。

 

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「どうしてぼくは真っ黒に生まれたんだろう?」

 

みんなが去った泉のほとりで、

カラスは水に映った自分の姿を見て悲しい気持ちになりました。

 

「せめてくちばしだけでも綺麗な色だったらなあ。」

 

「いや、せめて足の先だけでも素敵な色ならよかったのに。」

 

「いやいや、そんな贅沢は言うまい。胸元にひとすじ明るい色の羽があればそれで十分だ。」

 

 

 

あれこれと思いを巡らせてふと辺りを見ると、他の鳥たちが落としていった無数の羽が目に入りました。

 

「鮮やかな色だなあ。」

カラスはそのうちの一本を取り、自分の胸に刺してみました。

 

 

「うわあ、なんて素敵・・・」

水に映った自分の姿に嬉しくなり、カラスは落ちていた羽を次々と拾っては刺し、身体を飾っていきました。

 

 

 

「これならぼくも、明日広場に行けるかも。」

そうしてカラスは、たくさんの羽を集めて家に帰りました。

 

 

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翌朝、森の広場には、美しく羽を整えた鳥たちが集まっていました。

 

神様はゆっくりと見渡してから、一羽の鳥を指さして言いました。

「鳥の王はそなたじゃ。そなたが一番美しい。」

 

それは、たくさんの羽で彩られたカラスでした。

 

 

カラスは天にも昇る気持ちになりました。

でもそれは、他の鳥たちの声ですぐに打ち砕かれました。

 

「神様、こいつはカラスです!」

「これは私の羽よ!」

「他の鳥の羽で着飾るなんて!」

 

 

怒った鳥たちはカラスに刺さっている羽を全て奪い取り、あとには真っ黒な元の姿が現れました。

 

あざ笑う鳥たちの声にいたたまれなくなり、カラスはその場から飛び去りました。

 

 

「そんなつもりじゃないのに・・・」

 

カラスはただ、あの場にいたかっただけでした。

 

 

 

そして泣きながら飛び続け、カラスはいつの間にか森の奥深くまで来ていました。

 

 

 

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「ずいぶん遠くまで来てしまったなあ。」

気づくと、カラスは見知らぬ泉の側にいました。

 

泉には、傷だらけとなった黒い自分の姿が映っています。

その姿をじっと見つめているうちに、カラスは自分の身体が次第に重くなっていくのを感じました。

 

 

 

 

 

 

重たくなった身体で、カラスは空を飛んでいました。

眼下に見える景色は、何やら様子が違っています。

 

「あれれ、森ってこんな色だったっけ?」

見たことのない色とりどりの森の上をカラスは飛んでいました。

そればかりか、空も様々な色で染まっていました。

 

 

「黒い色は、ぼくだけなんだな。」

 

カラスはこれまでにない孤独を感じました。

 

 

と同時に、自分の姿が目に飛び込んできました。

 

水面に映る色鮮やかな世界の中に、真っ黒な自分のシルエット。

 

「黒って…、黒ってなんだか不思議……。」

 

 

カラスは何かわからないけれど、大きな力のようなものを感じました。それは嬉しいとも悲しいとも違う、生まれて初めての気持ちでした。

 

 

 

 

 

「どうやら眠ってしまったみたい。」

見知らぬ泉のほとりで、カラスは我に返りました。

 

「帰ろう。」

辺りはすっかり暗くなり、重たかった身体は元に戻っていました。

 

 

 

 

 

家に帰り朝を迎えると、鳥たちがカラスを探していました。

「どこに行っていたの?みんな探してたんだよ。」

「え?」

「神様が君を呼んでいるよ。」

 

 

カラスがいつもの広場にやって来ると、そこには・・・

 

 

 

他の鳥の羽を刺し、おしゃれを楽しんでいる鳥たちがいました。

 

頭の上にツンと立てて気取っている者、胸にふんわりと飾る者、尾っぽに結びつけてしゃなりしゃなり歩く者・・・

 

中には、カラスの真っ黒な羽を刺している鳥もありました。

 

「どう?似合ってる?」

「今度、その羽と交換してくれよ。」

 

 

カラスはぽかんとして、みんなの姿を見ていました。

 

 

「カラスよ、皆はそなたから『工夫』というものを学んだようじゃ。」

神様はニコニコしながら言いました。

 

「そなたには、もっと工夫できるよう知恵を授けよう。」

 

 

こうしてカラスは、神様から知恵を与えられました。

 

みんなの姿を見ながら、カラスは森の奥で感じた不思議な気持ちを思い出していました。

 

 

でもそれよりも、

みんなが自分の真似をしていることが、ただ嬉しくて、

 

カラスはもう自分の色のことなど、どうでもよくなっていました。

 

 

おしまい

 

 

 

☆つぶやき☆

イソップ寓話は、意外なオチや教訓めいた内容が好きで、子どもの頃よく読んだ物語のひとつです。

ただその中で、子ども心にどうしても納得がいかなかったのが、「おしゃれなカラス」「虚飾で彩られたカラス」等の名称がつけられたこのお話でした。


だってカラスは「工夫」をしただけじゃないか。他の鳥たちから羽を無理やり奪ったり盗んだわけではありません。

このカラスを光の中にいれてあげたい…そんな気持ちから創った物語です。


それにしても、神様のくせにカラスだって気づかなかったの?

そんな見方もしていた、私は天邪鬼な子どもでした。

 

 

♡挿絵について♡

現状ではフリー素材のサイトから挿絵を入れていますが、紙で読めるかたちに仕上げる最終版には、アーティストの吉野直美さんが描いてくださることになっています。今からとても楽しみ。(*^_^*)

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