一番美しい鳥を選び、鳥の王様とする
という神様のお触れが出ました。
鳥たちは競って泉に行き、羽づくろいを始めています。
「一番美しいのは、私よ。」
「我こそが、王にふさわしい。」
「もっと綺麗にして、神様にアピールしなくっちゃ!」
「いいなあ・・・ぼくはみんなみたいに、綺麗な色じゃないからなあ。」
他の鳥たちから離れて、カラスはぽつんと立ったままみんなを見ていました。
「どうしてぼくは真っ黒に生まれたんだろう?」
みんなが去った泉のほとりで、
カラスは水に映った自分の姿を見て悲しい気持ちになりました。
「せめてくちばしだけでも綺麗な色だったらなあ。」
「いや、せめて足の先だけでも素敵な色ならよかったのに。」
「いやいや、そんな贅沢は言うまい。胸元にひとすじ明るい色の羽があればそれで十分だ。」
あれこれと思いを巡らせてふと辺りを見ると、他の鳥たちが落としていった無数の羽が目に入りました。
「鮮やかな色だなあ。」
カラスはそのうちの一本を取り、自分の胸に刺してみました。
「うわあ、なんて素敵・・・」
水に映った自分の姿に嬉しくなり、カラスは落ちていた羽を次々と拾っては刺し、身体を飾っていきました。
「これならぼくも、明日広場に行けるかも。」
そうしてカラスは、たくさんの羽を集めて家に帰りました。
翌朝、森の広場には、美しく羽を整えた鳥たちが集まっていました。
神様はゆっくりと見渡してから、一羽の鳥を指さして言いました。
「鳥の王はそなたじゃ。そなたが一番美しい。」
それは、たくさんの羽で彩られたカラスでした。
カラスは天にも昇る気持ちになりました。
でもそれは、他の鳥たちの声ですぐに打ち砕かれました。
「神様、こいつはカラスです!」
「これは私の羽よ!」
「他の鳥の羽で着飾るなんて!」
怒った鳥たちはカラスに刺さっている羽を全て奪い取り、あとには真っ黒な元の姿が現れました。
あざ笑う鳥たちの声にいたたまれなくなり、カラスはその場から飛び去りました。
「そんなつもりじゃないのに・・・」
カラスはただ、あの場にいたかっただけでした。
そして泣きながら飛び続け、カラスはいつの間にか森の奥深くまで来ていました。
「ずいぶん遠くまで来てしまったなあ。」
気づくと、カラスは見知らぬ泉の側にいました。
泉には、傷だらけとなった黒い自分の姿が映っています。
その姿をじっと見つめているうちに、カラスは自分の身体が次第に重くなっていくのを感じました。
重たくなった身体で、カラスは空を飛んでいました。
眼下に見える景色は、何やら様子が違っています。
「あれれ、森ってこんな色だったっけ?」
見たことのない色とりどりの森の上をカラスは飛んでいました。
そればかりか、空も様々な色で染まっていました。
「黒い色は、ぼくだけなんだな。」
カラスはこれまでにない孤独を感じました。
と同時に、自分の姿が目に飛び込んできました。
水面に映る色鮮やかな世界の中に、真っ黒な自分のシルエット。
「黒って…、黒ってなんだか不思議……。」
カラスは何かわからないけれど、大きな力のようなものを感じました。それは嬉しいとも悲しいとも違う、生まれて初めての気持ちでした。
「どうやら眠ってしまったみたい。」
見知らぬ泉のほとりで、カラスは我に返りました。
「帰ろう。」
辺りはすっかり暗くなり、重たかった身体は元に戻っていました。
家に帰り朝を迎えると、鳥たちがカラスを探していました。
「どこに行っていたの?みんな探してたんだよ。」
「え?」
「神様が君を呼んでいるよ。」
カラスがいつもの広場にやって来ると、そこには・・・
他の鳥の羽を刺し、おしゃれを楽しんでいる鳥たちがいました。
頭の上にツンと立てて気取っている者、胸にふんわりと飾る者、尾っぽに結びつけてしゃなりしゃなり歩く者・・・
中には、カラスの真っ黒な羽を刺している鳥もありました。
「どう?似合ってる?」
「今度、その羽と交換してくれよ。」
カラスはぽかんとして、みんなの姿を見ていました。
「カラスよ、皆はそなたから『工夫』というものを学んだようじゃ。」
神様はニコニコしながら言いました。
「そなたには、もっと工夫できるよう知恵を授けよう。」
こうしてカラスは、神様から知恵を与えられました。
みんなの姿を見ながら、カラスは森の奥で感じた不思議な気持ちを思い出していました。
でもそれよりも、
みんなが自分の真似をしていることが、ただ嬉しくて、
カラスはもう自分の色のことなど、どうでもよくなっていました。
おしまい
作:牧野めぐみ
絵:吉野直美